大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(ネ)4121号 判決 1998年3月31日

控訴人

田中利朗

外一名

右両名訴訟代理人弁護士

奥川貴弥

川口里香

被控訴人

亡田中ふじ遺言執行者

浅見昭一

右訴訟代理人弁護士

浅見雄輔

右被控訴人補助参加人

田中清文

右訴訟代理人弁護士

鎌田勇夫

被控訴人

田中新一

外一名

右両名訴訟代理人弁護士

山本至

主文

一  原判決中被控訴人田中ふじ遺言執行者浅見昭一(以下「被控訴人浅見」という。)に関する部分(原判決主文第一、二項及び第三項中被控訴人浅見に対し持分権の確認を求める部分)を取り消す。

二  被控訴人浅見の控訴人田中利朗に対する訴え並びに被控訴人田中新一及び同木嶋ひろ子の被控訴人浅見に対する訴えをいずれも却下する。

三  控訴人らのその余の控訴を棄却する。

四  訴訟費用のうち、被控訴人浅見と控訴人田中利朗との間に生じた費用は第一、二審とも被控訴人浅見の負担とし、被控訴人田中新一及び同木嶋ひろ子と被控訴人浅見との間に生じた費用は第一、二審とも被控訴人田中新一及び同木嶋ひろ子の負担とし、控訴人らと被控訴人田中新一及び同木嶋ひろ子との間で控訴審において生じた費用は控訴人らの負担とし、被控訴人浅見補助参加人の参加によって生じた費用は第一、二審とも同補助参加人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

(本案前の申立て)

1 原判決主文第一、二項を取り消す。

2 被控訴人浅見の訴えを却下する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(本案の申立て)

1 原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら及び被控訴人浅見補助参加人

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  事案の概要

本件は、田中ふじ(以下「亡婦じ」という。)の遺言執行者である被控訴人浅見が、亡婦じの遺産であった原判決別紙物件目録記載一、二の各土地(以下、同目録記載の各土地を「本件一土地」、「本件二土地」のようにいい、本件一ないし五土地を併せて「本件各土地」という。)について、その登記名義人である控訴人田中利朗(以下「控訴人利朗」という。)に対し、亡婦じの遺言に基づき、吉野キヨ、田中政司、被控訴人浅見補助参加人(以下「補助参加人」という。)、田中勝成、内山キミ子及び控訴人田中利一(以下「控訴人利一」という。)に対する所有権移転登記手続を請求し(原審平成五年(ワ)第五三号事件)、これに、亡婦じの長男亡田中清(以下「亡清」という。)の代襲相続人である被控訴人田中新一(以下「被控訴人新一」という。)及び同木嶋ひろ子(以下「被控訴人木嶋」といい、両者を併せて「被控訴人新一ら」ともいう。)が、遺留分減殺請求権を行使して、独立当事者参加し、被控訴人浅見及び控訴人利朗に対して本件各土地の共有持分権の確認を求めるとともに、本件各土地の(共有)登記名義人である控訴人利朗に対し遺留分減殺を原因とする共有持分権移転登記手続を請求し(原審平成五年(ワ)第一五一号事件)、かつ、本件三ないし五土地の共有登記名義人である控訴人利一に対し、被控訴人新一らの共有持分権の確認及び共有持分権移転登記手続を請求した(原審平成七年(ワ)第一〇五号事件)事案である。

一  争いのない事実等(証拠の摘示のない部分は争いのない事実である。)

1  亡婦じは、本件各土地を所有し、その登記名義人であったが、平成五年一月二二日に死亡し、相続が開始した。

2  吉野キヨ、控訴人利朗、田中政司、補助参加人、田中勝成及び内山キミ子はいずれも亡婦じの子であり、控訴人利一は控訴人利朗の子であって亡婦じの養子である。また、被控訴人新一らは、亡婦じの長男亡清(平成三年一〇月九日死亡)の子である。

3  亡婦じは、昭和五七年一〇月一五日付け公正証書により、その所有する財産全部を控訴人利朗に相続させる旨遺言した(以下「旧遺言」という。)(乙一)。

4  亡婦じは、昭和五八年二月一五日付け公正証書により、従来の遺言を全部取り消し、改めて、次のとおりの内容の遺言をした(以下「新遺言」という。)(甲一)。

(一) 本件一土地を吉野キヨ、田中政司、補助参加人、内山キミ子及び田中勝成の五名に各五分の一あて相続させる。

(二) 本件二ないし五土地を、控訴人利朗及び控訴人利一の二名に各二分の一あて相続させる。

(三) 亡婦じ所有のその他の財産は、相続人全員で平等に相続させる。

(四) 本遺言の執行者として被控訴人浅見を指定する。

5  控訴人利朗は、平成五年二月五日、本件各土地につき、旧遺言の公正証書を用いて、相続を原因とする所有権移転登記手続を経由したが、平成七年四月六日、本件三ないし五土地につき、真正な登記名義の回復を原因として、控訴人利一に持分二分の一について所有権一部移転登記手続をした(乙一一)。

6  被控訴人新一らは、前記4(一)、(二)記載の各相続人及び被控訴人浅見に対し、平成五年九月三〇日から一〇月八日までの間にそれぞれ到達した書面により、遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  被控訴人浅見の当事者適格の有無

(一) 控訴人ら

前記一の4(一)、(二)記載の相続人は、新遺言により、亡婦じの死亡と同時に何らの行為も要することなく本件各土地を承継したものであり、遺言執行者である被控訴人浅見が、これに関して遺言の執行をする余地はない。したがって、本件について、被控訴人浅見は当事者適格を有しない。

(二) 被控訴人浅見

(1) 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言がされている場合であっても、「特段の事情」がある場合には、被相続人の死亡により直ちに相続人に権利が承継されるものではない。

本件においては、前記一の4(三)のとおり、遺言に「その他の財産」についての包括的な条項が含まれており、このような場合には、遺言執行者は「その他の財産」について、遺産目録等を作成し、各相続人に分配をする必要があり、それが終了するまでは、遺言執行者は「その他の財産」の管理処分権を専属的に有し、相続人による処分は無効である。したがって、このような条項を含む遺言がされた場合にまで、特定の遺産については「相続させる」趣旨の条項により直ちに相続人に権利が承継されると解するならば、仮に当該相続人が相続放棄したときは、その時点から遡って当該遺産が「その他の財産」に属することになり、遺言執行者が遡って当該遺産について管理処分権を有することとなるし、また、遺留分減殺請求の相手方も、特定の財産については相続人を、「その他の財産」については遺言執行者を相手としなければならないこととなり、必要以上に複雑になる。

したがって、本件においては、「相続させる」趣旨の条項により直ちに相続人に権利が承継されると解すべきでない「特段の事情」が存する。

(2) 仮に右のような「特段の事情」があるとはいえないとしても、相続人の意思、遺言執行者制度の存在意義に照らし、遺言執行者の当事者適格を否定すべきではない。

すなわち、遺言の執行とは、遺言の内容を実現するために必要な事務のことであり、これには、① 権利を移転し、実現するために必要な事務(目的物の引渡し、目的物の特定、清算、それらに必要な相続財産の管理処分等)、② 対抗要件を備えるための事務(登記手続、銀行預金の名義書換え等)、③ それらの実現が妨害されているときは、これを排除するための事務が含まれる。遺言者は、多くの場合、中立的かつ法律の専門家である弁護士を遺言執行者として指定し、これに遺言の実現を託するのであり、本件の遺言執行者も弁護士である。

特に、本件においては、亡婦じの新遺言の内容に反して、本件各土地の登記名義が相続人の一部の者に移転されているから、他の相続人は単独では相続を原因とする移転登記手続ができない状態となっている。このように遺言内容の実現が妨害されている場合に、その妨害を排除し、相続人が単独で登記手続ができるようにすることは、正に遺言執行者の権利であり、義務でもある。

また、遺贈の場合には、所有権移転登記手続を完了することまでが遺言執行者の職務とされており、これとの比較においても、「相続させる」趣旨の遺言がある場合に、遺言執行者の権限を否定するのは相当でない。

したがって、被控訴人浅見は、遺言執行者として、控訴人らに対する所有権移転登記手続請求訴訟において当事者適格を有する。

2  控訴人利朗に対する相続分の放棄ないし譲渡の成否

(一) 控訴人ら

平成五年一月二三日、亡婦じの葬儀の際に、吉野キヨ、田中政司、補助参加人、内山キミ子及び田中勝成の五名(以下「相続人キヨら」ともいう。)は、亡婦じの遺産相続について控訴人利朗と話合いをし、その結果、控訴人利朗が相続人キヨらに対しそれぞれ二〇〇万円ずつを支払うこととし、相続人キヨらは、相続分を放棄し、又は控訴人利朗に相続分を譲渡する旨の合意が成立した。控訴人利朗はこれに基づいて合計一〇〇〇万円を相続人キヨらに支払い、相続人キヨらはそれぞれ「相続放棄念書」を作成し、これを控訴人利朗に交付した。

したがって、相続人キヨらは、本件一土地の共有持分権を失った。

(二) 被控訴人浅見及び補助参加人

控訴人らの主張は争う。

控訴人ら主張の話合いの席では、控訴人利朗から亡婦じの遺言があるという話はあったが、遺言書は見せられず、代わりに遺産分割協議書と思われる書類を見せられ、既に本件一、二土地が亡婦じから控訴人利朗に譲渡されているものと思い込んでしまった。この点を控訴人利朗に質したところ、それぞれに二〇〇万円を支払う旨の提案があったので、相続人キヨらは謝罪の意思を表すものとして右金員を受け取った。したがって、相続人キヨらには、相続分の放棄ないし譲渡の意思はなかったし、仮にあったとみられるとしても、錯誤により無効であるか、又は民法一〇一三条により禁止された相続財産の処分に当たり、無効である。

3  被控訴人新一ら

(一) 被控訴人新一ら

被控訴人新一らは、亡婦じの相続人であり、亡婦じの相続財産について各三二分の一の遺留分を有しているところ、新遺言の内容はこれを侵害するものである。被控訴人新一らは、前記一の6のとおり、新遺言により本件各土地を取得した相続人及び被控訴人浅見に対し、遺留分減殺の意思表示をしたから、新遺言の内容はその限度で効力を失い、被控訴人新一らは、本件各土地について、それぞれ三二分の一の共有持分権を取得した。

権利の濫用、寄与分、相続分の譲渡に関する控訴人らの主張は、いずれも争う。

(二) 控訴人ら

(1) 亡婦じの夫であった亡田中桓(昭和五七年七月一九日死亡)(以下「亡桓」という。)は、生前、被控訴人新一らの父の亡清に多くの土地を贈与した。また、控訴人利朗は、昭和五七年ころ、被控訴人新一に建物を贈与している。これらの贈与は、被控訴人新一らが、亡桓や亡婦じの死亡の際に、その相続を放棄し、遺留分を主張しないとの約束の下になされたものである。

したがって、被控訴人新一らの遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用に当たる。

(2) 控訴人利朗は、亡婦じ所有の田畑を数十年間にわたって耕作し、亡桓が死亡した昭和五七年七月以降は一人で耕作し、遺産の維持に寄与した。さらに、控訴人利朗は、亡婦じを扶養し、同人の生活費を提供してきた。その寄与分は七割とするのが相当である。

したがって、控訴人利朗の相続財産について、被控訴人新一及び同木嶋の遺留分は、それぞれ三分の一の三割に当たる三二〇分の三と解すべきである。

(3) 本件一土地については、前記2の(一)のとおり、相続人キヨらから控訴人利朗に対してその共有持分が譲渡された後に、遺留分減殺請求がされたのであるから、遺留分権利者は、譲受人である控訴人利朗が右譲受けの時点で悪意であった場合のみ現物返還の請求ができる(民法一〇四〇条一項ただし書)。しかし、控訴人利朗は悪意ではなかったから、被控訴人新一らの本件一土地に係る遺留分減殺の主張は失当である。

第三  当裁判所の判断

一  被控訴人浅見の当事者適格について

1  前記第二の一の事実によれば、新遺言は亡婦じの不動産を特定の相続人に相続させる趣旨のものであり、亡婦じは、右遺言により、旧遺言の効力を失わせ、本件一土地を吉野キヨ、田中政司、補助参加人、内山キミ子及び田中勝成の五名に各五分の一ずつの割合で相続させ、本件二ないし五土地を控訴人利朗及び控訴人利一の二名に各二分の一ずつの割合で相続させたものであり、これにより、右の相続人らは、亡婦じ死亡の時に相続により右の持分割合により本件各土地の所有権を取得したものというべきである(最高裁平成三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。

そして、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言により、特定の相続人が被相続人の死亡時に相続により当該不動産の所有権を取得した場合には、当該相続人が自らその旨の所有権移転登記手続をすることができ、仮に右遺言の内容に反する登記がされたとしても、当該相続人が自ら所有権に基づく妨害排除請求としてその抹消を求める訴えを提起することができるのであるから、当該不動産について遺言執行の余地はなく、遺言執行者は、遺言の執行として相続人に対する所有権移転登記手続をする権利又は義務を有するものではないと解される(最高裁平成七年一月二四日第三小法廷判決・裁判集民事一七四号六七頁、同平成一〇年二月二七日第二小法廷判決・裁判所時報一二一四号四頁参照)。

被控訴人浅見は、新遺言に「その他の財産」についての包括的な条項が含まれている(前記第二の一の4(三))から、本件各土地についても亡婦じの死亡により直ちに権利が承継されると解すべきではない「特段の事情」が存する旨主張するけれども、前記第二の一の4(三)の条項は「亡婦じ所有のその他の財産は、相続人全員で平等に相続させる。」旨のものであって、この条項による遺言者の意思は、右の相続人らに相続開始と同時に遺産分割手続を経ることなく右財産の所有権を取得させることにあると解すべきであるから、遺言に右のような条項が含まれていることが、前示のように解することを妨げるものではない。また、本件において、他に、遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど、直ちに権利が承継されると解すべきでない特段の事情は存しない。したがって、被控訴人浅見の前記主張は採用することができず、亡婦じの遺言執行者である被控訴人浅見は、控訴人利朗に対する本件一、二土地の所有権移転登記手続請求に係る訴えについて、当事者適格を有しないというべきであり、被控訴人浅見の控訴人利朗に対する訴えは不適法である。

2  次に、被控訴人新一らは、独立当事者参加により、被控訴人浅見に対し、本件各土地につき、被控訴人新一らがそれぞれ三二分の一の割合による持分権を有することの確認を求めているが、前示のとおり本件各土地について遺言執行の余地はないのであるから、被控訴人浅見は、右確認の訴えについても当事者適格を有しないと解すべきである。したがって、被控訴人新一らの被控訴人浅見に対する訴えも不適法である。

二  被控訴人新一らの控訴人らに対する請求について

1  前記第二の一の事実によれば、被控訴人新一らは、亡婦じの相続財産に対しそれぞれ三二分の一の遺留分を有し、亡婦じの新遺言によりこれを侵害されたものと認められる(これを左右するに足りる主張立証はない。)ところ、被控訴人新一らが本件各土地の相続人に対し法定の期間内に遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をしたことは前示第二の一6のとおりであるから、新遺言による相続分の指定は、被控訴人新一らの遺留分を侵害する限度において失効し、被控訴人新一らは本件各土地につきそれぞれ三二分の一の共有持分権を取得したものというべきである。

2  控訴人らは、被控訴人新一らの遺留分減殺請求権の行使が権利の濫用に当たると主張するので判断する。

証拠(乙六の1ないし7、七の1、2、八の1ないし6、乙一二の1、2、控訴人利朗本人、被控訴人新一本人)によれば、亡清は、亡桓の長男であり、同人から昭和四四年九月に千葉県長生郡一宮町一宮字台場<番地略>畑一八八平方メートルほか四筆の土地及び昭和四九年三月に同町一宮字下ノ原新町<番地略>の宅地740.75平方メートルの贈与を受けたこと、これらの土地は、亡清の死亡とともに相続により被控訴人新一が取得したこと、被控訴人新一は、昭和五八年三月、右下ノ原新町所在の宅地上の建物(表示登記上の所有者は亡桓であり、昭和五八年二月に控訴人利朗名義で所有権保存登記がされている。)の贈与を受けたこと、亡清は、亡桓の相続について相続の放棄をしているが、同人以外の相続人キヨらも同様に相続の放棄をし、亡桓の遺産は、亡婦じ及び被控訴人利朗の二人が概ね二分する形で相続したこと、以上の事実が認められる。

右事実によれば、亡清は、亡桓から多数の不動産の贈与を受けており、亡桓の相続に際しては相続の放棄をしたものであるが、右のように贈与を受けるに当たり、亡清ないし被控訴人新一らが亡婦じの相続に関し相続を放棄し、又は遺留分を主張しないとの約束をしていたとの事実を認めるに足りる証拠はなく(被控訴人利朗本人は、右下ノ原新町所在の宅地上の建物について、亡桓の死後、亡清から、「亡婦じが亡くなったときの相続分は放棄するから、その代わりに建物の名義を被控訴人新一の名義にしてくれ」と頼まれたから、同建物を被控訴人新一に贈与したものである旨供述するけれども、客観的な裏付けを欠き、採用することができない。)、その他、本件全証拠によるも、被控訴人新一らの遺留分減殺請求が権利の濫用に当たるものと認めることはできない。

3  また、控訴人らは、亡婦じの遺産に対する寄与分の主張をするけれども、寄与分は、共同相続人間の協議により定められ、協議が整わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであり(民法九〇四条の二第一、二項)、遺留分減殺請求に係る訴訟において、抗弁として主張することは許されないと解するのが相当である。

したがって、控訴人らの寄与分に関する主張は採用することができない。

4  さらに、控訴人らは、本件一土地について、相続人キヨらから控訴人利朗に対してその共有持分が譲渡されたことを前提として、民法一〇四〇条一項の規定により、譲受人である被控訴人利朗に対しては遺留分減殺請求ができない旨主張する。

しかしながら、控訴人らの主張事実をもってしても、相続人キヨらは、亡婦じの遺産相続についての話合いの結果、相続分について放棄をし、又は共同相続人である控訴人利朗に相続分を譲渡したというのであって、これが、民法一〇四〇条一項の規定にいう「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したとき」に当たらないことは明らかである。したがって、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人らの右主張は採用できない。

5  以上のとおり、被控訴人新一らは、遺留分減殺請求により、本件各土地についてそれぞれ三二分の一の共有持分権を取得し、これに基づいて、本件一、二土地の登記名義人である控訴人利朗に対して、それぞれ持分三二分の一の割合による共有持分権移転登記手続を、本件三ないし五土地の共有登記名義人である控訴人らに対して、それぞれ持分六四分の一の割合による共有持分権移転登記手続を請求することができる。

三  よって、原判決中被控訴人浅見に関する部分を取り消し、被控訴人浅見の控訴人利朗に対する訴え及び被控訴人新一らの被控訴人浅見に対する訴えをいずれも却下することとし、原判決中被控訴人新一らの控訴人らに対する請求を認容した部分は相当であるから、控訴人らのその余の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、二項、六一条、六五条、六六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官筧康生 裁判官村田長生 裁判官後藤博)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例